日本人の食卓にチーズが並べられるまでの道程

歴史

1.日本最古のチーズ「蘇」と「醍醐」

日本人の食卓にチーズが並んだのは592年から710年の飛鳥時代と言われています。

最初に日本で作られたチーズは「蘇」と呼ばれ、当時の乳院寮という乳牛の飼育や牛乳の採取をする機関によって作られました。

製造方法は牛乳をただひたすらに煮詰めていくと言う非常にシンプルなものでした。

出来上がった「蘇」は当時の皇室に供御されるような非常に高級な食材で、他に神様にお供えされたり薬として天皇、貴族に飲まれていたとのことです。

「蘇」をさらに発酵させて作られた「醍醐」というチーズも当時の文献に残されています。

「醍醐」は「蘇」を熟成させた「熟蘇」と呼ばれるものから作り、より現在のチーズに近いものになっています。

武家に政権が移り始めると、乳牛は乳を搾るためでは無く農耕、軍用の物資を運ぶために利用されていくようになり、そのまま「蘇」や「醍醐」の製造は減っていきました。

2.1000年ぶりに蘇った日本のチーズ「白牛酪」

チーズはそのまま1000年近く日本人の口から離れる事になります。

チーズがまた日本の古い文献に登場するのは江戸時代の第8代将軍、徳川 吉宗の頃です。

当時インドから徳川家へ乳牛が贈られたことをきっかけに、牧場での飼育と「白牛酪」というチーズを作ったという記録が残されています。

「白牛酪」の製法は「蘇」をカビが生えないように乾燥させで、現在のバターに近いものだったということです。

その後も第9代将軍、徳川家斉の時代になるとオランダからもチーズの輸入を始めたと言われています。

3.チーズを本格的な産業にしようと考えた酪農家達

明治時代に入ると北海道や樺太などで開拓事業が進んでいき、牛を育てる牧場を経営する酪農家の人達も増え始めます。

チーズの生産はそういった流れの中で始まり、中でも函館のカトリック修道会の一つで現在でも菓子製造で有名なトラピスト修道院等のチーズの生産が今後の日本のチーズ製造に大きな一歩になります。

大正時代に入ると日本で本格的なチーズ製造が始まり、数は少ないながら工場もつくられました。

4.固形石鹸と呼ばれ、食べられなかったプロセスチーズ

その後昭和7年にプロセスチーズの製造が始まります。

しかし白くて四角い見た目が固形石鹸を想起させたことや、チーズの持つ独特の香りが受け入れられず、当時の日本人の口に馴染む事はありませんでした。

その後ベビーチーズや、パン食が一般化したことでわずかな加熱で溶けるチーズや、薄くスライスされたチーズ等が販売されるようになります。

本格的なナチュラルチーズは一部の輸入食品の専門店や、百貨店などでしか取り扱われておらず日本人にとってチーズと言えばプロセスチーズの事でした。

こういった経緯から、本格的にチーズが普及することは無く、大きな事業にはなりませんでした。

5.日本人のチーズへの価値観を大きく変えた全国的な大ヒット

日本人の生活にチーズが馴染み始めるのは1970年代になります。

電気冷蔵庫が普及したことで保存が簡単になり、クリームやチョコレートを使った生のケーキが注目されはじめます。

同時に滑らかなカッテージチーズが全国的に認知されたことと、日本国内での量産体制が整った事でチーズへの注目も高まります。

そしてチーズを使った生ケーキが誕生する事になり、1964年に東京オリンピックが行われて以降、海外の食品に庶民の注目が集まっていたのもあり「とても美味しい菓子がある。」と女性を中心に爆発的にチーズケーキがヒットします。

ケーキ屋さんが増えだした時期でもあり、数々の女性誌がチーズケーキの特集を組みイベント等も行われ、後に第一次チーズケーキブームとまで呼ばれる程の流行になりました。

6.日本の食卓に徐々に馴染み始めるチーズ

1980年代になるとボジョレーヌーボーのブームや、チーズケーキだけでなくティラミスやチーズ蒸しパン、チーズ入りどら焼き等のチーズを使ったお菓子のブーム、外食産業ではイタ飯のブーム等によって様々な種類のチーズと食べ方が日本に広く普及していきます。

特に日本のプロセスチーズは再度注目を集める事になり、時代のニーズの変化と共に様々な形に発展していきます。

とろける、切れるチーズ等調理しなくても簡単に食べることのできるものが好まれる傾向があり、キャンディタイプチーズと呼ばれる一口サイズのプロセスチーズも生まれ、たくさんのフレーバーが作られました。

サラミやガーリック等の簡単なおつまみのようなキャンディチーズから、カルシウム入りやヨーグルト味、イチゴ味等子供向けのおやつタイプのものまで今日の日本の食卓でも見られるものもそういった流れで作られる事になります。

7.現代日本におけるプロセスチーズとナチュラルチーズ

スーパーや小売店の陳列には今でもプロセスチーズは多く見られますが、80年代の後半になるとナチュラルチーズの消費量がプロセスチーズを上回ります。

パン、ケーキの他にもスナック菓子や様々なレストラン、ファストフード店が日本に入ってきており、私達が目にしていない場所でナチュラルチーズが多く使われるようになったのが大きな理由です。

日本のナチュラルチーズのほとんどは価格が安いオーストラリアやニュージーランド、オセアニア等海外からの輸入で賄われており、日本の生産者はほとんどいませんでしたが、ここ数10年で生産業者が200軒以上に増加してきています。

小規模な生産者が多く生産量も海外のチーズにくらべまだまだ少ないものの、日本のチーズ工房は国内外問わず少しづつ評価され始めています。

こうして日本では本格的なナチュラルチーズの普及には時間がかかったものの、独自に発展した多様性のあるプロセスチーズ等、数多くのチーズが食卓に普及し、近年では日本料理に取り入れられたりとチーズ自体の栄養価値も見直され、今後もさらに様々な商品が生まれることでしょう。

 

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